さてインドネシアへは私が数カ月毎に定期的にお客様に訪問するのですが、社長は心待ちしてくれました。
私が最新の日本の金属加工業の話、設備の話、加工技術の話をするからです。以前は日系商社の方が必ず同行して下さったのですが、慣れてくると車と運転手が飛行場で待っていて一人で訪問することもありました。
ある日ステンレスのスポット溶接の相談が有りました。鍋リングという製品で今でもアメリカでは売れていますが、ガラス製の鍋蓋の外周エッジ部分に0.2mm厚みのステンレスが巻かれています。
この端末をスポット溶接するのです。
抵抗溶接で、電極の摩耗が激しい、火花(チリ=合わせた二枚の板の合わせ目で発生する火花・スパッター=電極と板表面で発生する火花)が飛んで溶着部が汚くなるので後仕上げが必要になることを悩んでいました。
その他鍋・釜・やかんの製品にはスポット溶接部が多数あるのです。
そこで私が、スポット溶接の電極は一般的にはクロム銅が良い。硬くて、耐熱性があり、時効処理でさらに硬化させることが出来るので日本では一般的にクロム銅を使っている。
当時彼らは適当に鋼材屋から銅丸棒を買ってきて自分で切って電極にしていました。
さらに火花が発生するのを防ぐには二つの方法が有ることを説明しました。
一つは電極をクロム銅の倍近い値段のするベリリウム銅を使えば火花は飛ばない。
ベリリウム銅は自己消炎作用があり、電圧がかかった状態で二つの電極が離れる際に空気中で放電することを自己消炎する性質をもっていること、さらにクロム銅よりももっと硬くて摩耗しない性質を説明しました。
はたしてインドネシアでベリリウム銅を入手できるか心配でしたが。最後に抗溶接機の選定ですが一般的な交流電気抵抗溶接機は電源が正弦波形のカーブで電流の上昇が緩やかにあり、昇温までのタイムラグが有ります。
さらに電流の変動曲線時に電極を離すと火花が飛びやすい。
一方最新の抵抗溶接機はコンデンサータイプで正弦波を矩形波に変調し大電流を一気に投入し、直ちに遮断することで綺麗に溶接部が短時間で形成出来ることを説明しました。
当時の機械製品のメンテナンスを考えるとパナソニックの製品を紹介してあげて、後日カタログを送付してあげました。
二ヶ月後にそのプレス業者を訪問したところ、なんと二台のパナソニックの最新スポット溶接機が稼働していました。
調子が良くてとても喜んでくれました。
溶接部を小さく出来るので仕上げ研磨が必要なくなり製品見栄えも良くなりました。
さらにベリリウム銅の電極も使っていましたが、ベリリウム銅は全く消耗しないけれど硬すぎて形状修正や切削加工がしにくいと悩みを言っていたので、クロム銅にすればと言っておきました。
ベリリウム銅のスポット電極は同一サイズの大量生産には向くが、多品種少量品には過剰な性能だと思い知らされました。
お金をもっていることもビックリですが自分で日本から取り寄せたといっておりその行動力には驚かせられます。
私のアドバイスは100%信用してくれていてプレス加工技術・表面処理技術など実際に彼らはそれを取り入れようと即行動しますので、うかつな説明は出来ません。
技術屋冥利に尽きるお客さんでした。
後で商社の人に聞いたら我が社は日本人技術者がサポートしてくれているとお客様にアピールしているそうでした。
インドネシア編つづく。次回もお楽しみに。