さて話をステンレス板ばね屋業者の熱処理後のシミ・錆の発生の件に戻しましょう。
SUS304やSUS301を板ばね製品にプレス加工後300℃前後で加熱するとシミや赤銹状の点銹が発生することがあります。
東南アジアのような高湿度環境では作業条件によっては再現性100%の不良率で発生することがあります。
300℃前後に加熱されたステンレス成形品を炉から取り出し、湿度100%近い環境に曝されるとステンレス成形品の温度が冷えると共に水分のたっぷり含んだ空気が接するとステンレス表面に結露します。
これは空気中に存在している大量の水分が温度の低下によって過飽和状態となって空気中に含有しきれない水分がステンレス表面に出現する理屈です。
早く冷まして次工程に進めたいからと言って強制ファンなどで冷やすとなおさら結露し易くなります。
結露してもステンレスだから錆びないかという訳にはいかず、300℃空気中で加熱すると鉄の酸化物の多い皮膜が形成され、本来クロムの豊富な酸化物で覆われることで耐食性を維持しているのに、この皮膜では水部が介在すると錆びやすくなります。
さてこれを防ぐにはどうするか、二つの方法があります。
実際に熱処理業者が実行していた事例です。
一つ目は熱処理製品をゆっくり常温まで持っていくことです。実際の作業は熱処理後の製品を金属籠に入れたまま熱処理炉周辺で保管して明朝お客さんに届けてました。
もう一つの方法は熱処理時間を長くすることです。45分近く処理すると綺麗な金色を呈します。15分以内ですと色ムラ、シミが出やすく錆びやすい製品になります。
生産性から多くの方が15分以内の条件が多いですが出来れば最低でも20分以上加熱保持すると耐食性の良い品質のテンパーカラーが得られます。
この理由は時間を延ばすと鉄系酸化物よりもクロムの鋼中からの拡散によるクロム系酸化皮膜が均一に生じて錆びにくくなります。
いずれにしろ素材の状態よりもテンパー熱処理後は耐食性が若干落ちます。
この現象を防ぐために少量のモリブデンを添加したSUS301系鋼種が有りますが高価です。
20分以上の加熱と製品の除冷がお勧めです。
これは東南アジアだけの話ではなく日本国内でも同様です。
日本の場合季節の変わり目春先、秋口が要注意時期です。東南アジアの場合一年中空調の利いた工場で仕事をしているケースがあり、むしろこの様な現象が全く起きない環境の場合も有りました。
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